ビジネスフレームワーク
TAM・SAM・SOMとは?計算方法と活用法を徹底解説
「事業計画書に”市場規模”を書こうとして、手が止まった経験はありませんか?」
TAM・SAM・SOMという言葉は知っていても、「自社に当てはめるとどう計算すればいいのか」がわからない——そんな声を、私たちは300社以上の事業支援の現場で数多くいただいてきました。
市場規模の算出は、新規事業の成否を左右する最初の関門です。しかし、多くの解説記事が「定義の説明」で終わっており、「実際に計算して、戦略に活かす」ところまではカバーしきれていません。
本記事では、ONE SWORDの支援現場で培われた知見をもとに、TAM・SAM・SOMの定義から計算手順、業界別の具体例、投資家への見せ方、よくある計算ミスまでを一気通貫で解説します。
この記事を読み終えた頃には、自社の市場規模を根拠を持って算出し、事業戦略に落とし込める状態になっています。
TAM・SAM・SOMとは?【3つの市場規模の定義】

TAM・SAM・SOMとは、市場規模をTAM(最大市場)→SAM(対応可能市場)→SOM(獲得可能市場)の3段階で捉えるフレームワークです。
1990年代後半のドットコムバブル期に、投資家が事業の成長ポテンシャルを評価するために広まった概念であり、現在では事業計画書の作成や新規事業の参入判断に欠かせない基本フレームワークとなっています。
TAM(Total Addressable Market)——理論上の最大市場
TAMは、ある事業が理論上獲得しうる最大の市場規模を指します。
わかりやすく言えば、「もし競合が一切存在せず、全員が自社の顧客になったら、いくらの売上が生まれるか?」という仮定の数字です。投資家に対して「この事業の天井(ポテンシャル)はここまである」と示すために使われます。
たとえば、オンライン英会話サービスを立ち上げる場合、TAMは「日本における語学学習市場全体の規模」に相当します。
SAM(Serviceable Available Market)——自社が対応可能な市場
SAMは、TAMの中から自社の製品・サービスが実際に提供可能な範囲に絞り込んだ市場規模です。
地理的条件、ターゲット業界、価格帯、提供チャネルなどの制約を加味して算出します。「自社のビジネスモデルで、どこまでリーチできるか?」を示す指標であり、TAMよりも現実的な数字です。
先ほどのオンライン英会話の例では、SAMは「20〜40代のビジネスパーソン向けオンライン英会話市場」のように絞り込まれます。
SOM(Serviceable Obtainable Market)——現実的に獲得可能な市場
SOMは、SAMの中で自社が現実的に獲得できると見込む市場規模です。
競合状況、自社のリソース(人員・予算・ブランド認知度)、営業チャネルの到達範囲などを加味した「地に足のついた数字」であり、事業計画における売上目標の根拠として最も重視される指標です。
3つの関係を一言で表すと

TAMは「夢」、SAMは「戦場」、SOMは「取り分」です。
この3つを明確に区別し、それぞれの数字に根拠を持たせることが、説得力のある事業計画の第一歩になります。
ONE SWORDの現場知見: 多くの方がTAMの大きさに注目しがちですが、事業の成否を分けるのはSOMの精度です。300社以上の支援現場で見えてきたのは、SOMを「希望的観測」ではなく「根拠ある数字」で語れる企業ほど、事業を軌道に乗せるスピードが速いという事実です。
なぜTAM・SAM・SOMが重要なのか?——市場規模を算出すべき4つの理由

「定義はわかったけれど、なぜわざわざ計算する必要があるのか?」——そう感じた方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、TAM・SAM・SOMを算出すべき4つの理由を整理します。
理由1: 事業の”器”の大きさを把握するため
市場規模がわからないまま事業を始めるのは、「地図なしで航海に出る」のと同じです。
どれだけ優れたプロダクトでも、そもそも市場が小さければ大きな成長は望めません。逆に、小さな市場に対して過剰な投資をしてしまうリスクもあります。TAM・SAM・SOMを算出することで、「この事業はどこまで伸びる可能性があるのか?」を定量的に判断できるようになります。
理由2: 資金調達・投資判断の説得材料になるため
投資家やボードメンバーが新規事業を評価する際、最も重視する情報のひとつが市場規模です。
「なぜこの市場に参入するのか?」「この事業にはどれだけの成長余地があるのか?」——こうした問いに、TAM・SAM・SOMの数字で答えることで、事業計画の説得力が格段に上がります。
理由3: 事業戦略の優先順位を決めるため
複数の新規事業案を検討している場合、市場規模は優先順位を判断する客観的な基準になります。
限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ)をどの事業に集中させるかを意思決定する際、TAM・SAM・SOMの比較が有効です。
理由4: 参入タイミングの判断材料になるため
市場規模は「現在のスナップショット」だけでなく、「将来の成長率」とセットで捉えることが重要です。
成長市場であれば先行者優位を狙えますが、成熟市場では差別化戦略が必要になります。CAGR(年平均成長率)を加味した市場規模の推移を把握することで、「今参入すべきか、もう少し待つべきか」の判断が可能になります。
ONE SWORDの現場知見: TAM・SAM・SOMは「市場を測る道具」であると同時に、「自社の戦略を言語化する道具」でもあります。数字を出す過程で、ターゲット、競合、自社の強みが整理されていく——この”思考の副産物”こそが、本当の価値だと私たちは考えています。
TAM・SAM・SOMの計算方法【2つのアプローチ】

TAM・SAM・SOMの計算方法には、業界統計から絞り込むトップダウン法と、顧客データから積み上げるボトムアップ法の2つがあります。
トップダウン法(Top-Down Approach)
トップダウン法は、業界レポートや政府統計などのマクロデータを起点に、ターゲットセグメントへ段階的に絞り込む方法です。
計算の流れ:
-
TAM = 業界全体の市場規模(公的統計・業界レポートから取得)
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SAM = TAM × 自社がリーチ可能な市場の割合(地理・業界・顧客属性で絞り込み)
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SOM = SAM × 自社が獲得可能なシェア率(競合・リソース・チャネルを加味)
メリット:
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短時間で概算値を出せます
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公的データを引用できるため説得力があります
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市場全体の「天井」を把握するのに適しています
デメリット:
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市場定義の取り方で数字が大きくぶれやすいです
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自社のビジネスモデルとの乖離が生まれやすいです
向いているケース: 市場が確立している業界での参入検討、投資家向けのピッチ資料作成
ボトムアップ法(Bottom-Up Approach)
ボトムアップ法は、自社の顧客データや単価情報を起点に、市場全体へ積み上げていく方法です。
計算の流れ:
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TAM = 潜在顧客数 × 顧客あたりの年間平均単価
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SAM = ターゲット顧客数 × 顧客あたりの年間平均単価
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SOM = 獲得見込み顧客数 × 顧客あたりの年間平均単価
メリット:
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自社のビジネスモデルに即した精度の高い数字が出せます
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前提条件が明確なため、検証・修正がしやすいです
デメリット:
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データ収集に時間がかかります
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前提条件(顧客数・単価・獲得率など)の設定に根拠が必要です
向いているケース: 新規市場への参入、既存顧客データがある場合、事業計画書の作成
どちらを使うべきか?

結論として、両方を併用するのがベストです。
トップダウンで「市場の天井」を把握し、ボトムアップで「自社の実力値」を算出します。2つの数字を突き合わせて乖離が大きい場合は、前提条件を見直すシグナルです。
たとえば、トップダウンでTAMが1兆円と出たのに、ボトムアップで積み上げたTAMが100億円にしかならない場合、市場の定義がずれているか、顧客ターゲットの設定が狭すぎる可能性があります。
【具体例で学ぶ】TAM・SAM・SOMの計算シミュレーション
ここからは、3つの業種別の具体例を通じて、実際の計算プロセスを見ていきます。
※以下の数値はあくまでシミュレーション(仮定に基づく試算)です。実際の市場規模や前提条件は、業界・地域・時期によって異なります。
具体例1: BtoC——地方都市のパーソナルジム(ボトムアップ法)
前提条件:
-
対象地域:人口30万人の地方都市
-
事業内容:月額制パーソナルトレーニングジム
TAMの算出:
- 日本のフィットネス市場規模 ≒ 約7,000億円(出典:経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」)
SAMの算出:
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対象地域人口:30万人
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20〜60代の健康意識が高い層の割合:約40% = 12万人
-
パーソナルジムに関心を持つ割合:約5% = 6,000人
-
年間平均利用額:月2万円 × 12ヶ月 = 24万円
-
SAM = 6,000人 × 24万円 = 約14.4億円
SOMの算出:
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開業初年度の月間受入キャパシティ:30名
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稼働率(年間平均):70%
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実稼働顧客数:30名 × 70% ≒ 21名
-
年間売上:21名 × 24万円 = 約504万円
-
3年目目標(口コミ・広告による拡大後):顧客100名 × 24万円 = 約2,400万円
ポイント: ボトムアップ法では、「自社のキャパシティ」という物理的制約からSOMを算出するため、現実的な数字が出やすいのが特徴です。
具体例2: BtoB——中小企業向けSaaSツール(トップダウン法 × ボトムアップ法)
前提条件:
-
事業内容:中小企業向けの業務効率化SaaSツール
-
月額利用料:5万円/社
トップダウン法でのTAM算出:
- 国内SaaS市場規模 ≒ 約1.5兆円(2026年推計。2028年には約2兆円規模に成長すると予測されています)
トップダウン法でのSAM算出:
- 中小企業向け業務効率化SaaS市場 ≒ 国内SaaS市場の約10% = 約1,500億円
ボトムアップ法でのSAM算出(検証用):
-
国内中小企業数:約360万社(出典:中小企業庁「中小企業白書」)
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ターゲット業界(製造業)の中小企業数:約38万社
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DX推進意欲がある企業の割合:約15% = 約5.7万社
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年間利用額:月5万円 × 12ヶ月 = 60万円
-
SAM = 5.7万社 × 60万円 = 約342億円
SOMの算出:
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初年度の営業体制で獲得可能な企業数:月10社 × 12ヶ月 = 120社
-
解約率を考慮した年末時点の顧客数:約100社
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SOM = 100社 × 60万円 = 約6,000万円
-
3年後目標:顧客500社 × 60万円 = 約3億円
ポイント: トップダウン(1,500億円)とボトムアップ(342億円)のSAMに差がありますが、これは「市場定義の粒度」の違いによるもので、ボトムアップの数字の方がより実態に即しています。
具体例3: 新規事業——D2Cスキンケアブランド(フェルミ推定を活用)
前提条件:
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事業内容:20〜30代女性向けのD2Cスキンケアブランド
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主力商品:月額3,500円の定期購入スキンケアセット
TAMの算出(フェルミ推定):
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国内スキンケア市場規模 ≒ 約1兆4,600億円(2025年見込、出典:富士経済)
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うちEC経由の購入割合 ≒ 約15% = 約2,190億円
SAMの算出:
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20〜30代女性人口:約1,250万人(出典:総務省統計局 人口推計)
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スキンケアにこだわりがある層:約40% = 500万人
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D2Cブランドへの購入意向がある層:約10% = 50万人
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年間平均購入額:月3,500円 × 12ヶ月 = 42,000円
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SAM = 50万人 × 42,000円 = 約210億円
SOMの算出:
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初年度の広告予算:月100万円 × 12ヶ月 = 1,200万円
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想定CPA(顧客獲得単価):5,000円
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年間新規顧客獲得数:1,200万円 ÷ 5,000円 = 2,400人
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継続率(6ヶ月後):40% → 年間平均顧客数 ≒ 1,440人
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SOM = 1,440人 × 42,000円 = 約6,048万円
ポイント: D2Cビジネスでは、広告予算→CPA→獲得数→継続率というファネルでSOMを算出すると、投資対効果が可視化され、事業計画の精度が上がります。
ONE SWORDの現場知見: 計算結果の数字自体よりも、「なぜその前提条件を置いたのか」の説明力の方が重要です。300社以上の支援現場で投資家やボードメンバーが本当に見ているのは、数字の大きさではなく「思考の筋道」です。
TAM・SAM・SOM算出でよくある5つの失敗と対策

計算方法を知っていても、実際にやってみると「落とし穴」にはまるケースが多くあります。ここでは、私たちが支援現場で多く目にしてきた5つの典型的なミスを紹介します。
失敗1: TAMを”大きく見せたい欲”で膨らませてしまう
具体例: 健康食品のスタートアップが、TAMを「健康市場全体(数十兆円)」と定義してしまうケースです。
実際に自社の商品で代替できる範囲はごく一部であるにもかかわらず、市場の定義を広げすぎることで、TAMの数字だけが独り歩きします。投資家はこのパターンを見抜きますので、逆に信頼を失う原因になります。
対策: TAMは「自社の製品・サービスで代替できるもの」に限定して定義してください。「もし自社が市場を100%独占したら」という問いに対して、現実的に答えられる範囲に留めることが重要です。
失敗2: SAMとSOMの区別が曖昧になる
SAM(対応可能市場)とSOM(獲得可能市場)の境界線が不明瞭なまま計算してしまい、結果的に同じような数字が並ぶケースです。
対策: SAMは「理論上、自社がリーチできる市場」、SOMは「初年度〜3年で実際に取れる市場」と明確に線引きしてください。SOMにはリソース制約(営業人数、広告予算、生産能力など)を必ず反映させます。
失敗3: ボトムアップの「前提条件」を検証しない
顧客数や単価の仮定が希望的観測になっており、根拠のない「丸い数字」が並んでしまうケースです。
対策: 仮定には必ず根拠を添えてください。調査データ、テスト販売の結果、顧客ヒアリングの結果、類似サービスの公開データなど、第三者が検証可能な情報源を示すことが重要です。
失敗4: 市場の”成長率”を考慮していない
現時点の市場規模だけで判断し、3〜5年後の変化を織り込んでいないケースです。縮小市場に参入してしまうリスクや、成長市場の先行者メリットを見逃すリスクがあります。
対策: CAGR(年平均成長率)を調べ、現在値だけでなく「3年後・5年後の市場規模予測」も算出してください。「市場規模 × 成長率」のセットで提示することが、説得力のある事業計画の条件です。
失敗5: 一度算出したら「更新しない」
市場環境は常に変化しています。コロナ禍でのEC市場の急拡大、AI技術の普及による新市場の創出など、外部環境の変化によって市場規模は大きく変動します。
対策: 四半期ごとの市場規模レビューを事業運営に組み込んでください。特にSOMは、事業の成長フェーズ(仮説検証期→MVP期→スケール期)に応じて再設定が必要な「生きた数字」です。
ONE SWORDの現場知見: 市場規模の計算は「一度やれば終わり」ではありません。仮説検証のサイクルの中で何度も計算し直し、精度を高めていくものです。特にSOMは、事業フェーズごとに再設定すべき”生きた数字”であり、その見直しプロセスこそが戦略の精度を上げていきます。
市場規模データの調べ方——無料・有料の情報源リスト
市場規模のデータは、政府統計、業界団体レポート、調査会社の公開データ、自社の顧客データの4つの情報源から収集できます。
「そもそもデータはどこから持ってくればいいのか?」——この疑問に答えるために、実務で使える情報源をリストアップします。
無料で使える情報源
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経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」 — サービス業の売上高データを月次・年次で公開しています
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総務省「経済センサス」 — 全産業の事業所数・従業者数・売上高を網羅する基幹統計です
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中小企業庁「中小企業白書」 — 中小企業の動向や業種別データが豊富に掲載されています
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矢野経済研究所(プレスリリース) — 有料レポートのサマリーやグラフが無料で閲覧できます
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各業界団体の統計データ — 日本フランチャイズチェーン協会、日本フードサービス協会など業界ごとの統計
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RESAS(地域経済分析システム) — 地域単位の経済データをビジュアルで確認できる無料ツールです
有料で使える情報源
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矢野経済研究所・富士経済の業界レポート — 特定業界の詳細な市場規模・シェアデータが取得できます
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Statista・IBISWorld — グローバルデータベースで海外市場のデータも入手可能です
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日経テレコン・帝国データバンク — 企業データベースで競合企業の売上規模を調べられます
データが見つからない場合の対処法
既存の統計データが存在しない新規市場の場合は、以下の方法で推計します。
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フェルミ推定: 公開データを組み合わせて論理的に概算する方法です(例:人口 × 利用率 × 単価)
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類似市場からの推計: 類似サービスや隣接市場のデータから類推する方法です
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自社調査: アンケート調査や顧客ヒアリングで一次データを取得する方法です
情報源の信頼性チェックリスト
どの情報源を使う場合でも、以下の4点を確認してください。
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発行元は信頼できる機関か?(政府機関、大手調査会社、業界団体など)
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データの調査時期はいつか?(2年以上古い場合は最新データがないか再検索)
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調査手法は明記されているか?(サンプルサイズ、調査対象の範囲など)
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複数の情報源でクロスチェックできるか?
投資家・経営層に”刺さる”TAM・SAM・SOMの見せ方

市場規模は「計算する」だけでは意味がありません。算出した数字を「伝える」技術が、事業計画の説得力を左右します。ここでは、投資家や経営層に刺さるプレゼンテーションの4つのコツを紹介します。
コツ1: 三層構造の同心円図で視覚的に伝える
TAM・SAM・SOMの見せ方として最も一般的かつ効果的なのが、**同心円図(ネスト型の円グラフ)**です。
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外円 = TAM(最大の円)
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中円 = SAM(TAMの内側)
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内円 = SOM(最も小さい円)
各層の間に「絞り込みの根拠」を矢印やテキストで記載することで、数字の導出プロセスが一目で伝わります。
コツ2: 「絞り込みのロジック」をストーリーで語る
単に数字を並べるのではなく、「なぜこの市場を選んだか」のストーリーを添えてください。
効果的な伝え方の例:
「国内SaaS市場約1.5兆円(TAM)のうち、中小企業向け業務効率化ツール市場は約1,500億円(SAM)です。私たちは初年度、最もDXニーズが高い製造業に特化し、SOM 6,000万円の達成を目指します。」
このように、TAM→SAM→SOMの各段階で「なぜその絞り込みをしたのか」を一文ずつ説明する流れが効果的です。
コツ3: SOMの「根拠」を最も厚く説明する
投資家が最も注目するのは、TAMの大きさではなくSOMの実現可能性です。
SOMの根拠として提示すべき要素は以下の通りです。
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獲得チャネル: どのルートで顧客にリーチするか(営業、広告、パートナーなど)
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CVR実績: テスト販売やβ版での実績データがあれば最強の根拠になります
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競合との差別化: なぜ自社が選ばれるのかの理由
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チームのケイパビリティ: このSOMを達成できるチーム体制があるか
コツ4: 市場の成長性を時系列で示す
現在の市場規模だけでなく、3〜5年後の予測値を添えてください。
CAGR(年平均成長率)を明示した上で、「現在500億円の市場が、CAGR 15%で5年後には約1,000億円に成長する見込みです」のように時系列で提示すると、事業の将来性が伝わります。
NG例と改善例
NG: 「TAMは10兆円です。非常に大きな市場です。」
→ 根拠なし、絞り込みなし、自社との関連性が不明。
OK: 「国内ヘルスケア市場10兆円(出典:矢野経済研究所 2025年版)のうち、当社のターゲットであるデジタルヘルス×睡眠改善領域はSAM 800億円。初年度は法人向けサービスに集中し、50社への導入でSOM 1.5億円の達成を目指します。」
→ 出典あり、絞り込みロジックあり、SOMに具体的な獲得計画あり。
上場企業に学ぶTAM・SAM・SOMの活用事例
TAM・SAM・SOMの概念をどう実務に活かしているのか、上場企業の開示情報から学べる事例を紹介します。
事例1: note(メディアプラットフォーム)
noteは、TAMをデジタルコンテンツ関連市場として約8.5兆円規模と定義していると言われています(※開示資料の時期・市場の定義範囲によって数字は変動します。なお、デジタルコンテンツ白書2024によると、デジタルコンテンツ市場全体は約10.3兆円に達しています)。
投資家向けの成長資料では、この巨大なTAMの中からクリエイターエコノミー市場へと段階的に絞り込むことで、「市場のポテンシャルの大きさ」と「自社のフォーカス領域」を両立させた説明を行っています。
事例2: サスメド(医療用アプリ)
サスメドは、不眠症治療用アプリのSAMを算出する際、市場を2つの層に分解しています。
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既存の睡眠薬治療からの切り替え需要
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不眠症の自覚症状はあるが睡眠薬治療には抵抗がある未治療患者の新規需要
この2つを合算してSAM 400億円超と算出しており、「既存の代替」と「新規の開拓」を分けて市場を定義するアプローチは、多くの事業で参考になります。
事例3: Sansan(名刺管理SaaS)
Sansanは、決算説明資料の中で市場規模を段階的に拡張する戦略を明示しています。
当初は「名刺管理市場」という比較的小さなSAMからスタートし、事業の成長に伴い「営業DX市場」→「ビジネスインフラ市場」へとSAM自体を再定義・拡大していく戦略を取っています。これは「SOMを達成しながらSAMを広げていく」好例です。
事例から学べる3つのポイント
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「市場定義」の境界線の引き方で数字は大きく変わる — 定義の根拠を明示することが信頼性の鍵です
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SAMの絞り込みロジックに「独自性」がある企業ほど説得力が高い — サスメドの「2層分解」のように、自社ならではの切り口を持つことが差別化になります
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SOMは「現在の実力値」として控えめに、TAMは「将来の可能性」として提示する — 大きすぎるSOMは信頼を損ない、小さすぎるTAMは魅力を下げます
TAM・SAM・SOMと他のフレームワークの組み合わせ方
TAM・SAM・SOMは「市場の大きさ」を測る道具ですが、それだけでは事業戦略は完成しません。他のフレームワークと組み合わせることで、市場規模の数字が「生きた戦略」に変わります。
組み合わせ1: 3C分析 × TAM・SAM・SOM
3C分析(Customer・Competitor・Company)とTAM・SAM・SOMは、以下のように対応します。
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Customer(市場・顧客): TAM・SAMの算出プロセスで市場を定量化します
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Competitor(競合): 競合のシェアからSOMの妥当性を検証します
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Company(自社): 自社の強み・リソースでSAM→SOMの絞り込みロジックを構築します
3C分析で定性的に整理した内容を、TAM・SAM・SOMで定量化する——この組み合わせが、戦略の「言語化」と「数値化」を両立させます。
組み合わせ2: STP分析 × TAM・SAM・SOM
STP分析のプロセスは、TAM・SAM・SOMの絞り込みプロセスとほぼ対応しています。
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Segmentation(市場細分化) → SAMの定義に直結します
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Targeting(ターゲット選定) → SOMの設定に直結します
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Positioning(差別化の方向性) → 競合との差別化による獲得可能シェアの根拠になります
組み合わせ3: PMF(Product Market Fit)× SOM
PMFの達成状況によって、SOMの性質が変わります。
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PMF達成前: SOMは「仮説」であり、検証のための目安として機能します
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PMF達成後: SOMは「実績ベースの予測」となり、スケール計画の根拠になります
PMFの兆候(リピート率の向上、口コミの増加、NPS改善など)が見えた時点でSOMを再計算することで、事業計画の精度が一段階上がります。
ONE SWORDの現場知見: TAM・SAM・SOMは、戦略という「大きな地図」の中の1ピースに過ぎません。市場選定→顧客分析→競合分析→ポジショニング→仮説検証→KPI設計——これらを一気通貫で設計できて初めて、市場規模の数字が「生きた戦略」に変わるのです。
TAM・SAM・SOMに関するよくある質問(FAQ)
Q1. TAM・SAM・SOMの読み方は?
TAMは「タム」、SAMは「サム」、SOMは「ソム」と読みます。それぞれTotal Addressable Market(タム)、Serviceable Available Market(サム)、Serviceable Obtainable Market(ソム)の頭文字を取った略称です。
Q2. TAM・SAM・SOMはどんな場面で使いますか?
主に以下の4つの場面で使われます。
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事業計画書の作成
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投資家へのピッチ・資金調達
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新規事業の参入判断
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既存事業の市場ポジション確認
Q3. TAMとSAMの違いは何ですか?
TAMは「理論上の最大市場」であり、SAMは「自社が実際にサービスを提供できる範囲の市場」です。TAMから、地理的条件、ターゲット顧客層、ビジネスモデルの制約で絞り込んだものがSAMです。
Q4. SOMはどうやって求めますか?
SOMは、SAMに対して自社が獲得できるシェア率を掛けて算出します。シェア率の根拠には、競合状況、自社のリソース(営業人数・広告予算)、営業チャネルの到達範囲、テスト販売の実績などを使います。ボトムアップで「獲得見込み顧客数 × 平均単価」で算出する方法が、最も精度が高くなります。
Q5. 市場規模のデータが見つからない場合はどうすればいいですか?
フェルミ推定を活用してください。公開データ(人口統計、業界データなど)を組み合わせて論理的に推計する方法です。また、類似市場のデータから類推したり、自社でアンケート調査を実施して一次データを取得する方法もあります。
Q6. TAM・SAM・SOMは一度計算すれば終わりですか?
いいえ、定期的な見直しが必要です。市場環境は常に変化するため、少なくとも四半期ごとの見直しを推奨します。特にSOMは、事業の成長フェーズ(仮説検証期→MVP期→スケール期)に応じて再設定すべき「生きた数字」です。
まとめ——TAM・SAM・SOMは「戦略の出発点」

本記事のポイントを整理します。
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TAM・SAM・SOMは、市場規模を「最大→対応可能→獲得可能」の3段階で捉えるフレームワークであり、事業計画・資金調達・参入判断に不可欠です
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計算方法はトップダウン法とボトムアップ法の2つがあり、両方を併用して突き合わせるのがベストです
-
計算結果の数字よりも「絞り込みのロジック」と「前提条件の根拠」が重要であり、投資家はここを最も注視します
-
投資家・経営層にはSOMの実現可能性を最も厚く説明することで、事業計画の説得力が格段に上がります
-
TAM・SAM・SOMは戦略全体の一部であり、3C分析・STP分析・PMFなど他のフレームワークと組み合わせて初めて「生きた戦略」になります
まずは本記事の計算手順に沿って、自社のTAM・SAM・SOMを試算してみてください。数字を出す過程で、自社の戦略が整理されていくことを実感していただけるはずです。
市場規模の数字を「戦略の地図」に変えませんか?
TAM・SAM・SOMの算出は、事業戦略の「出発点」に過ぎません。
市場規模を把握したその先には、ターゲット設定、競合分析、ポジショニング、仮説検証、KPI設計という「戦略の全体像」が待っています。しかし、これらを一人で体系的に整理し、実行に落とし込むのは容易ではありません。
こんな方におすすめです。
-
市場規模を算出したものの、その先の「戦略の全体像」が見えない方
-
事業計画の「思考の整理」がしたい方
-
「PMF(Product Market Fit)の達成」に向けた道筋を明確にしたい方
-
マーケティング戦略の「優先順位を明確化」したい方
ONE SWORDの「マーケティング戦略OS エッセンシャルプログラム」は、300社以上の支援現場から生まれた実戦用の戦略フレームワークです。市場分析から戦略設計、実行計画までを「自分の手で」組み立てられる実践キットとして、大学や商工会議所での登壇実績を持つ代表・安部謙太郎が監修しています。
動画解説つきで、オンデマンドでご自身のペースで進められます。
市場規模の数字を「戦略の地図」に変えたい方は、ぜひ詳細をご覧ください。
