新規事業
新規事業の価格設定|失敗しない7つの方法と実践フレームワーク
「新規事業の価格、いくらに設定すればいいのか分からない」——これは、新規事業を立ち上げるほぼすべての経営者・事業責任者が直面する悩みです。
新規事業の価格設定とは、コスト・競合・顧客価値の3軸を分析し、事業戦略に基づいて最適な販売価格を決定するプロセスです。
価格設定は、売上・利益だけでなく、ブランドイメージやターゲット顧客の質にまで影響を及ぼします。価格設定の失敗は事業全体の収益性を損ない、新規事業の持続そのものを困難にしかねません。
本記事では、新規事業の価格設定に使える7つの具体的な方法と、PSM分析・WTP調査といった実践的なフレームワーク、さらによくある5つの失敗パターンとその回避策までを網羅的に解説します。価格設定の「正解」を見つけるための地図として、ぜひ最後までご活用ください。
なぜ新規事業の価格設定は難しいのか?|3つの構造的な理由

新規事業の価格設定が既存事業のそれとは根本的に異なる理由は、以下の3つの構造的な問題にあります。
1. 過去の販売実績データが存在しない
既存事業であれば、過去の販売データ・顧客の購買パターン・季節変動といった豊富な情報をもとに価格を最適化できます。しかし新規事業には、このような「判断材料」が一切ありません。つまり、仮説だけを頼りに価格を決めなければならないのです。
2. 比較対象となる競合商品が不明確
類似サービスが市場に存在しない場合、「競合がいくらで売っているか」を基準にした価格設定が機能しません。特に革新的なプロダクトほど、参照すべき価格帯が見つからないというジレンマが生まれます。
3. 初期価格がブランドポジショニングを決定づける
マーケティングの4P(Product, Price, Place, Promotion)の中で、Price(価格)は唯一、直接的に売上と利益を生み出す要素です。さらに新規事業においては、最初に設定した価格が「この企業・この商品は、このレベルのものだ」というブランドの第一印象を形成します。後からの価格変更は、既存顧客との関係を損なうリスクがあるため、変更コストが非常に高くなります。
ONE SWORDの現場知見: 300社以上の新規事業支援の中で、価格設定の失敗パターンとして最も多いのは「原価に利益率を乗せるだけのコストベース思考」です。コストから積み上げた価格は、顧客が感じる価値とかけ離れていることが多く、「安すぎて信頼されない」か「高すぎて売れない」のどちらかに陥りがちです。
価格設定の基本|3つのアプローチと新規事業での使い分け

価格を決める方法は、大きく分けて3つのアプローチに分類されます。それぞれの特徴と、新規事業での適用可否を整理します。
コスト志向型(コストプラス法)
原材料費・人件費・固定費などの原価を算出し、そこに目標利益率を上乗せして価格を決める方法です。
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メリット: 計算がシンプルで、確実に利益を確保できます
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デメリット: 顧客が感じる「価値」を反映しないため、本来もっと高く売れる商品を安く売ってしまう(機会損失)リスクがあります
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新規事業での推奨度: △(補助的に使用)
競争志向型(コンペティティブ・プライシング)
競合他社の価格帯を調査し、自社のポジショニングに応じて同等・やや高め・やや低めに設定する方法です。
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メリット: 市場の相場に合った価格を設定でき、顧客の「相場感」と乖離しません
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デメリット: 直接の競合がいない新規事業では基準が定まりません。また、価格競争に巻き込まれるリスクがあります
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新規事業での推奨度: △(類似サービスがある場合のみ有効)
価値志向型(バリューベースプライシング)
顧客が製品・サービスに感じる「価値」を基準に価格を決定する方法です。
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メリット: 顧客価値に見合った適正価格を設定でき、利益率を最大化できます
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デメリット: 顧客価値の定量化に調査コスト・時間がかかります
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新規事業での推奨度: ◎(最も推奨)
アプローチ
基準
新規事業での推奨度
適した場面
コスト志向型
原価+利益率
△
原価構造が明確な製造業
競争志向型
競合価格
△
類似サービスが存在する市場
価値志向型
顧客の知覚価値
◎
新規性の高いサービス全般
新規事業では、バリューベースプライシングを軸に、コスト志向型で下限を設定し、競争志向型で市場感覚を補正するという「3軸のハイブリッド」が最も実践的なアプローチです。

【実践】新規事業で使える7つの価格設定方法

ここからは、新規事業で実際に活用できる7つの価格設定方法を、具体的な使い方とともに解説します。
方法1:コストプラス法(原価加算法)
原価に目標利益率を加算して価格を算出する、最もシンプルな価格設定方法です。
計算式: 販売価格 = 原価 ÷(1 − 目標利益率)
たとえば、原価700円の商品を利益率30%で販売したい場合、700 ÷(1 − 0.3)= 1,000円が販売価格になります。
新規事業での使い方: コストプラス法だけで最終価格を決めるのではなく、「これ以下では売れない」という価格の下限ラインを把握するために使用します。
方法2:競合基準法(コンペティティブ・プライシング)
競合他社の価格帯を調査し、自社の差別化ポイントに応じて価格を設定する方法です。
新規事業での注意点: 直接の競合製品がない場合は、顧客が現在その課題を解決するために使っている「代替手段」の費用を基準にしてください。たとえば、業務効率化SaaSであれば、「手作業にかかっている人件費」が代替コストになります。
方法3:バリューベースプライシング(価値基準型)
顧客が知覚する「価値」を定量化し、その価値に基づいて価格を決定する手法です。新規事業に最も推奨されるアプローチであり、特にBtoB事業で高い効果を発揮します。
価値の3要素を数値化する手順:
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機能的価値: 製品・サービスが実現する具体的な機能やスペックを洗い出します
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経済的価値: 導入によるコスト削減額・売上増加額をROI(投資対効果)として算出します
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情報的価値: ブランドイメージ向上・社会的評価など、定性的な価値を評価します
BtoBでの実践例: あるBtoB SaaSの場合、「月20時間の業務削減 × 時給3,000円 = 月6万円のコスト削減」が経済的価値です。この場合、月額2〜3万円の価格設定であれば、顧客はROI 2〜3倍を得られるため、納得感のある価格となります。
方法4:PSM分析(価格感度測定)
PSM分析(Price Sensitivity Measurement)とは、4つの質問を通じてターゲット顧客の価格感度を測定し、最適な価格帯を統計的に導き出す調査手法です。
4つの質問:
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「いくらから高いと感じ始めますか?」
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「いくらから安いと感じ始めますか?」
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「いくらから高すぎて買えないと感じますか?」
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「いくらから安すぎて品質に不安を感じますか?」
回答を集計・グラフ化すると4本の曲線が描かれ、その交点から「上限価格」「妥協価格」「理想価格」「下限価格」の4つの価格ポイントが導出されます。(詳しい手順は次のセクションで解説します。)
方法5:スキミングプライシング(上澄み吸収価格)
市場投入時にあえて高価格を設定し、価格感度の低いアーリーアダプターから高い利益を確保した後、段階的に価格を下げていく戦略です。
適用条件:
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技術的な優位性が高く、模倣されにくい場合
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ブランド力があり、高価格でも顧客を獲得できる場合
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初期の開発投資を早期に回収したい場合
代表例: Apple社のiPhoneやSony社のPlayStationは、典型的なスキミングプライシングを採用しています。
方法6:ペネトレーションプライシング(市場浸透価格)
意図的に低価格を設定し、短期間で市場シェアを一気に拡大する戦略です。
リスク:
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十分な資金力がないと体力勝負に耐えられません
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「安い=低品質」というブランドイメージが定着するリスクがあります
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一度定着した低価格からの値上げは顧客の反発を招きやすく、慎重な設計が求められます
ペネトレーションプライシングは、ネットワーク効果が強いプラットフォーム型ビジネスや、規模の経済が働く事業に向いています。
方法7:フリーミアムモデル
基本機能を無料で提供し、上位機能・追加容量・サポート等で課金するモデルです。SaaS・アプリ系の新規事業で広く採用されています。
設計のポイント:
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無料版の機能を「価値は感じるが足りない」レベルに設計することが鍵です
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無料→有料への転換率は業界平均で2〜5%程度です。この数値を前提にビジネスモデルを組む必要があります
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無料ユーザーの維持コスト(サーバー費用等)を事前に試算し、採算が取れるかを検証してください
PSM分析のやり方|4ステップで最適価格を導き出す方法

PSM分析は、新規事業の価格設定において最も実践的な調査手法のひとつです。ここでは、具体的な実施手順を4ステップで解説します。
ステップ1:調査設計
まず、調査対象のターゲット顧客を明確に定義します。「誰に聞くか」がPSM分析の精度を左右する最大の要因です。
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サンプル数: 最低30名(信頼性を高めるなら100名以上を推奨します)
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対象者: 実際に購買意思決定をする人(BtoBなら決裁者を含めること)
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調査方法: Webアンケート、対面インタビュー、またはその併用
ステップ2:4つの質問の実施
以下の4つの質問を、想定する商品・サービスの概要を示した上で順番に行います。
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「この商品・サービスが**いくらから『高い』**と感じ始めますか?」
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「この商品・サービスが**いくらから『安い』**と感じ始めますか?」
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「この商品・サービスが**いくらになったら『高すぎて買えない』**と思いますか?」
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「この商品・サービスが**いくらになったら『安すぎて品質に不安がある』**と思いますか?」
回答は金額を自由記述で取得する方式が一般的です。選択肢式にする場合は、等間隔の価格帯(例:500円刻み)を設定してください。
ステップ3:データ集計とグラフ作成
回答データを集計し、各質問の累積比率を算出します。
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「高い」「高すぎる」は、低い価格から高い価格への昇順累積
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「安い」「安すぎる」は、高い価格から低い価格への降順累積
4つの累積曲線を同一グラフ上にプロットします。
ステップ4:4つの交点の読み取りと活用
グラフ上に現れる4つの交点が、意思決定の基準となる価格ポイントです。
交点
名称
意味
「高すぎる」×「安すぎる」
理想価格(最適価格)
価格に対する抵抗が最も少ない理想的な価格
「高い」×「安い」
妥協価格(無関心価格)
消費者が「まあこのくらいか」と感じる価格
「高すぎる」×「安い」
上限価格
これ以上高いと購買が急激に落ちる限界
「高い」×「安すぎる」
下限価格
これ以下だと品質不安で購買されない限界
※交点の名称は文献やリサーチ会社によって呼び方が異なる場合があります。上記はマクロミル・NTTコムリサーチ等で広く用いられている呼称に準拠しています。
実務的な活用: 理想価格〜妥協価格の範囲が「最も安全な価格帯」です。ここを基点に、ブランド戦略や利益率の目標と照らし合わせて最終価格を決定します。
ONE SWORDの現場知見: PSM分析の結果をそのまま最終価格として採用するのは危険です。調査はあくまで「仮説」を得るためのもの。実際の市場でMVP(最小限の製品)を使って検証するプロセスが不可欠です。特にBtoB領域では、調査時と実際の購買時で意思決定の基準が変わるケースが頻繁に発生します。
WTP(支払意思額)調査とは?|新規事業での実施手順

WTP(Willingness To Pay:支払意思額)とは、顧客がある商品やサービスに対して支払ってもよいと考える最大金額のことです。
WTPは主観的な指標であり、顧客のニーズの強さ・代替手段の有無・ブランドへの信頼度などによって大きく変動します。
WTP調査の3つの方法
1. 直接質問法(オープンエンド型)
「この商品に最大いくらまで支払いますか?」と直接聞く方法です。シンプルですが、回答者が「安く答える」バイアスがかかりやすい点に注意が必要です。
2. 二項選択法(提示価格に対するYes/No)
「この商品が○○円だったら購入しますか?」と聞き、Yes/Noで回答を得ます。提示金額を複数パターン用意し、統計的に処理することで、より正確なWTPを推定できます。
3. コンジョイント分析(属性と価格の組み合わせ評価)
商品の機能・デザイン・価格など複数の属性を組み合わせた選択肢を提示し、顧客がどの組み合わせを好むかを分析します。最も精度は高いですが、調査設計に専門知識が必要です。
新規事業でWTP調査を成功させるコツ
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プロトタイプを見せてから聞く: 概念だけで質問するのと、実物(プロトタイプ)を見せてから質問するのでは、回答の精度が大きく異なります
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BtoBの場合は「機会損失」を先に示す: 「導入しない場合に発生するコスト」を認識させた上でWTPを聞くと、より正確な金額を得られます
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PSM分析との使い分け: PSM分析は「受容可能な価格帯」を把握するのに適しており、WTP調査は「支払いの上限額」を把握するのに適しています。両方を実施すると、より精度の高い価格設定が可能です
要注意|新規事業の価格設定でよくある5つの失敗パターン

新規事業の価格設定で失敗するパターンには、明確な共通点があります。以下の5つの失敗パターンを事前に知っておくことで、致命的なミスを回避できます。
失敗1:「原価+利益率」だけで価格を決めてしまう
コストを積み上げて「利益が出る価格」を算出するアプローチは、顧客が感じる価値を一切反映していません。結果として、本来5,000円で売れる商品を2,000円で売ってしまう(安すぎて信頼されない)か、逆に市場が受け入れる価格を大きく超えてしまう、という両極端な事態を招きます。
失敗2:安売りで市場シェアを取ろうとする
「まずは安くして顧客を集め、後から値上げしよう」という戦略は、ほとんどの場合うまくいきません。安売りは「安い=低品質」というブランドイメージを定着させ、後からの値上げに対して顧客の強い反発を招きます。牛丼チェーン大手各社による価格競争は、業界全体の収益性を圧迫した典型的な事例です。
失敗3:初期価格に固執して市場の声を無視する
「一度決めた価格は変えてはいけない」という思い込みは危険です。新規事業の価格設定は「仮説」に過ぎません。市場からのフィードバック(購買率、顧客の反応、解約率など)を見ながら柔軟に調整する姿勢が必要です。
失敗4:全顧客に同一価格を適用する
顧客セグメントによってWTP(支払意思額)は大きく異なります。大企業と中小企業、都市部と地方、初心者とプロフェッショナルでは、同じサービスに対する「価格の感じ方」がまったく違います。単一価格戦略は、高WTP層からの取りこぼし(機会損失)と、低WTP層の取り逃し(市場縮小)の両方を同時に引き起こします。
失敗5:価格設定を事業計画の最終段階まで後回しにする
これが、最も致命的で、かつ最も多い失敗パターンです。「まず製品を作ってから価格を考えよう」というアプローチでは、製品が完成した時点で「思ったより高く売れない」と気づいても手遅れです。
ONE SWORDの現場知見: 300社以上の支援実績から断言できるのは、PMF(Product Market Fit)の検証と価格検証は同時並行で進めるべきということです。「顧客はこの製品を欲しいか?」と「顧客はこの価格で買うか?」は、切り離して考えてはいけません。製品と価格をセットで検証することで、事業計画の精度が格段に上がります。
価格設定を後回しにしてしまう原因の多くは、マーケティング戦略全体の「全体像」が見えていないことにあります。ターゲット・ポジショニング・チャネル・価格は相互に連動しており、どれかひとつだけを切り出して最適化しても、全体としてうまく機能しないのです。
価格は「戦略」である|事業計画と価格設定を連動させる3つの視点

価格設定を「いくらにするか」という数字の問題として扱うのではなく、事業戦略の一部として位置づけることが成功の鍵です。以下の3つの視点で、価格と事業計画を連動させてください。
視点1:ターゲット×ポジショニングとの整合性
価格は、ブランドが発する**「無言のメッセージ」**です。
高価格は「プレミアム・高品質」を、低価格は「手軽さ・アクセシビリティ」を暗黙のうちに伝えます。ターゲット顧客とブランドポジショニングに矛盾しない価格を設定しなければ、マーケティング施策全体に一貫性が失われます。
視点2:ビジネスモデルとの連動
価格構造は、ビジネスモデルと不可分です。
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買い切り型: 初期費用で利益を回収。顧客獲得コスト(CAC)に見合う価格が必要です
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サブスクリプション型: 月額/年額の積み上げでLTV(顧客生涯価値)を最大化。解約率(チャーンレート)が利益を左右します
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従量課金型: 使用量に応じた課金。初期ハードルは低いですが、収益予測が立てにくい面があります
ビジネスモデルの選択と価格設計は、セットで意思決定してください。
視点3:PMF(Product Market Fit)と価格の同時検証
顧客インタビューやMVPテストでは、「この製品は必要か?」だけでなく、「この価格なら買うか?」を必ず検証項目に含めてください。PMFが達成されていない段階で価格を固定するのは、地図なしで航海に出るようなものです。
ONE SWORDの視点: マーケティング戦略全体を「OS(オペレーティングシステム)」として捉えることが重要です。価格はOSの中の「ひとつの機能」に過ぎません。ターゲット設定・競合分析・チャネル戦略・メッセージングと連動して初めて、価格は本来の力を発揮します。部分最適(価格だけの最適化)ではなく、全体最適(戦略全体の中で価格を位置づける思考)が必要です。
決めた価格を検証する|3つの価格テスト手法

価格は「決めたら終わり」ではありません。実際の市場で検証し、データに基づいて最適化していくプロセスが不可欠です。
手法1:LPでのABテスト
異なる価格を掲載した2パターンのランディングページ(LP)を同時に公開し、コンバージョン率(CVR)の差を統計的に比較する方法です。
実施のポイント:
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変更する要素は「価格のみ」に絞り、他の要素(コピー、デザイン等)は統一します
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統計的に有意な結果を得るには、十分なサンプル数(各パターン最低100件程度)が必要です
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価格の差によって顧客に不公平感を与えないよう、テスト期間・対象地域を限定するなどの配慮が重要です
手法2:MVPによる実売テスト
最小限の機能を持つMVP(Minimum Viable Product)を実際にリリースし、購買行動のデータから価格の妥当性を検証する方法です。
収集すべきデータ:
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購入率(提案数に対する成約数)
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価格に対する顧客のコメント・反応
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「なぜ買ったか」「なぜ買わなかったか」の理由
単に「売れたかどうか」だけでなく、「なぜその価格で買ったのか(または買わなかったのか)」の定性データが、次の価格改定の判断材料として非常に重要です。
手法3:段階的値上げテスト
低価格からスタートし、一定期間ごとに段階的に値上げしながら、購入率や解約率の変化を観測する方法です。
見極めのポイント: 値上げに対して購入率が急激に低下する「天井」が見えたポイントが、その時点での最適価格の上限です。逆に、値上げしても購入率がほとんど変わらない場合は、まだ価格に余裕がある(=もっと高く売れる可能性がある)ことを意味します。
【業界別】新規事業の価格設定で押さえるべきポイント
価格設定のアプローチは業界によって異なります。ここでは、主要な4つの業界タイプ別のポイントを整理します。
SaaS・サブスクリプション型
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設計の軸: 月額料金 × 想定継続期間 = LTV(顧客生涯価値)でビジネスモデルを組みます
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価格帯の設定: 松竹梅の3プラン構成が一般的です。中間プランが最も売れやすい「おとり効果」を活用します
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無料トライアル: 7〜14日間のトライアル期間を設けることで、初期のハードルを下げます
EC・物販型
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原価率の管理: 商品原価率に加え、送料・決済手数料・返品コストを含めた「実質原価」を把握します
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心理的価格の活用: 端数効果(1,000円 → 980円)は依然として有効です。ただし、高価格帯の商品では端数効果よりもキリの良い数字(10,000円など)の方が信頼感を生む場合があります
コンサルティング・サービス型
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価格体系の選択肢: 時間単価、プロジェクト単価、成果報酬の3パターンから選択します
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バリューベースが最適: 顧客の課題解決によって生まれる経済的価値をベースに価格を設定するのが最も効果的です
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パッケージ化のコツ: 「初回ヒアリング+戦略設計+実行支援」のようにスコープを明確にし、価格の根拠を可視化します
飲食・店舗型
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原価率の目安: 飲食業界では原価率30%が長年の目安とされてきましたが、近年は食材価格の高騰により実態は35〜37%程度まで上昇しているケースも多く見られます(日本政策金融公庫 2023年度調査では一般飲食店の原価率が36.9%)。原価率の管理だけでなく、立地・雰囲気・サービスなどの付加価値で差別化を図ることが重要です
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脱・価格競争: 価格で勝負するのではなく、体験価値(接客品質、空間演出、ストーリー)で「値段以上の満足感」を提供することが重要です
価格設定に使えるフレームワーク5選|使い分けガイド
価格設定をより精緻に行うためのフレームワークを5つ紹介します。自社の状況に合ったものを選んでご活用ください。
フレームワーク
概要
適した事業タイプ
難易度
PSM分析
4つの質問で最適価格帯を特定
全般(特にBtoC)
★★☆
コンジョイント分析
属性×価格のトレードオフを測定
複数プランがある事業
★★★
ヴェブレン効果
高価格=ステータスの心理を活用
高級品・ブランド事業
★☆☆
アンカリング効果
最初に高い基準価格を提示し割安感を演出
複数プラン提示時
★☆☆
価格弾力性分析
価格変動に対する需要の変化度を測定
価格改定の検討時
★★★
PSM分析
本記事で詳述した手法です。調査コストが比較的低く、新規事業の初期段階で最も使いやすいフレームワークです。
コンジョイント分析
「この機能が付いて○○円 vs あの機能が付いて△△円、どちらを選びますか?」という選択型の質問を通じて、各属性の「価値」を統計的に算出します。複数のプランや料金体系を設計する際に特に有効です。
ヴェブレン効果
「価格が高いほど欲しくなる」という心理効果です。ブランド品やラグジュアリーサービスで活用されます。新規事業では、プレミアムポジショニングを狙う場合に検討してください。
アンカリング効果
人は最初に提示された数字(アンカー)を基準に、その後の判断を行う傾向があります。価格表示において「通常価格 → 割引価格」の順で見せたり、最も高額なプランを先に提示することで、他のプランを「お得」に感じさせることができます。
価格弾力性分析
価格を1%変動させた場合に、需要が何%変動するかを測定する分析です。弾力性が高い(=価格変動に敏感な)商品は慎重な価格設定が求められ、弾力性が低い商品は値上げの余地があると判断できます。
価格は変えていい|価格改定の適切なタイミングと伝え方
「価格は一度決めたら変えてはいけない」という思い込みは、新規事業の成長を阻む大きな障壁です。適切なタイミングと方法で価格を改定することは、事業を持続的に成長させるために不可欠です。
価格改定すべき3つのタイミング
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PMF達成後: 市場からの反応が安定し、顧客セグメントと提供価値が明確になった段階で、本格的な価格の最適化を行います
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機能追加・バージョンアップ時: 提供する価値が増えたのであれば、価格の見直しは当然の判断です。新機能のリリースは値上げの自然な理由になります
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市場環境の変化時: 原材料費の高騰、為替変動、競合状況の変化など、外部要因によってコスト構造や競争環境が変わった場合は価格の見直しが必要です
値上げを伝えるときの3つの原則
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理由の透明性: 値上げの背景(品質向上、コスト増加等)を正直に伝えます。顧客は「なぜ上がるのか」が分かれば、多くの場合受け入れてくれます
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事前告知と猶予期間: 値上げの1〜3か月前に告知し、既存顧客には現行価格での猶予期間を設けます
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付加価値の同時提供: 値上げと同時に新機能やサービス向上を提示すると、「価格が上がった分、価値も上がった」と認識されやすくなります
ONE SWORDの視点: 値上げができない経営者は、実は「自社の提供する価値を過小評価している」ケースがほとんどです。価格は「顧客が感じる価値」に基づくべきものです。適正価格への修正は、顧客に対する誠実さの表れでもあり、サービス品質を持続するための必須条件です。
まとめ|新規事業の価格設定を成功させる実践チェックリスト
本記事の内容を、実践で使えるチェックリストとしてまとめます。新規事業の価格設定に取り組む際に、以下の10項目を確認してください。
新規事業の価格設定チェックリスト:
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□ 価格設定の目的(利益最大化 or シェア獲得)を明確にしたか
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□ コスト・競合・顧客価値の3軸で分析したか
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□ PSM分析またはWTP調査を実施(もしくは計画)したか
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□ 事業戦略・ポジショニングと価格の整合性を確認したか
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□ 価格検証(ABテスト・MVP)の計画を立てたか
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□ 業界特有の価格慣習を調査したか
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□ セグメント別の価格設定を検討したか
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□ 価格改定のルールとタイミングを決めたか
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□ 顧客への価格の伝え方を設計したか
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□ マーケティング戦略全体の中で価格を位置づけたか
このチェックリストの最後の項目が、実は最も重要です。価格設定は、マーケティング戦略全体を構成する「ひとつのパーツ」に過ぎません。ターゲット選定・競合分析・チャネル設計・メッセージングなど、すべての要素が連動して初めて、価格は適切に機能します。
新規事業の価格設定を「戦略」として整理しませんか?
ここまでお読みいただいた方は、すでに価格設定の「方法論」については十分な知識をお持ちのはずです。
しかし、実際に新規事業の価格を決めようとすると、「で、結局うちの場合はどうすればいい?」という壁にぶつかることが少なくありません。なぜなら、価格設定は単独で完結するものではなく、ターゲット設定・競合分析・ポジショニング・チャネル戦略と密接に連動しているからです。
ONE SWORDの**「マーケティング戦略OS エッセンシャルプログラム」は、こうした戦略要素を「地図」のように可視化し、全体の中での優先順位を明確にするための実践用キット**です。
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「初心者でも取り組める?」→ 動画解説付きで、ご自身のペースで進められます
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「自社の業界でも使える?」→ 業種を問わず応用可能な、抽象度の高い「戦略OS」です
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「他のプログラムとの違いは?」→ 知識をインプットするだけの講座ではなく、**実際の事業に適用する「実戦用ワークシート」**がセットになっています
価格設定を含む、マーケティング戦略の「全体像」を整理したい方は、まずはプログラムの詳細をご覧ください。
